2004年8月11日
この怖い話は、今も僕の周りで起こっています。
怖くて外を歩けないんです。気配があるんです。昼間も夜も声がずっと聞こえています。目を閉じても耳をふさいでも、いつも近くにいるんです。いくら気配を消して歩いていても、どれだけ注意を払っても、必ず一度は見てしまいます。見たくないのに見てしまいます。
それは、蝉。
あの禍々しい鳴き声。ゆっくりと柔らかく動く錆色の節々。視点の定まらないどす黒い眼球。不吉な羽音。悪魔の手先としか思えない。描写していて吐き気がしてきた。
何百、何千という悪魔の手先が断末魔のごとき羽音を立てている街路樹の下など悠々歩けるわけがない。急に飛んで来て頭や背中にとまるかもしれない。書いていて恐ろしくなってきた。
一日に一回、必ずその骸を目にする。それはめまいがするほど真白い腹を見せて死んでいる。誰かが踏みつけた跡がある。何かがはみ出ている。うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! もう書けません。
緊張の日々は続く。それが僕のそばに寄ってこないように気配を消し、死んでいるそれを踏まないように注意深く毎日歩いている。徒歩2分のコンビニに行くときでさえその努力は怠らない。マンションの玄関を開けたときから僕の精神はそれに集中する。もしかしたらマンションの廊下に転がっている可能性も十分ある。郵便受けに入っている可能性も十分ある。...郵便受け。書いて初めて気がついた。これからはそこも気を付けよう。
窓の外にある植木に水をやるのも容易じゃない。辺りをくまなく確認して素早く開け、素早く植木に水をやり、再び素早く閉める。大仕事だ。プランターは3つあるんだ。素早く×3だ。
今後のことを考えるだけで気分が悪くなってくる。今それは鳴き声を上げ、羽音を立てている。つまりもうじき死んでいく。時間が経てば経つほど死んでいく。そして道端に転がっていく。野良猫は死んでいるそれをくわえている。旨そうにぱりぱり食べている。でもそれはまだ完全に死んでいない。最後の力を振り絞って羽を小刻みに振るわせる。腹を激しく動かす。6本の脚で抵抗する。だが無惨にも野良猫の鋭利な牙が食い込み、千切られる。ぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱり。もし、絶対にあって欲しくないけれど、僕の家の犬が散歩の途中それをくわえてしまったら...という想像は僕のキャパシティを超えている。これだけ嫌いなのにどうしてすらすら書けるのかは、嫌悪すればするほどそれ自身のこと気にしてしまうという、人間の途方もない想像力がそうさせます。
過去に一度だけそれが僕の背中にとまったことがある。いつだったかは良く憶えていないのだけれど、確か大学院生のときだったと思う。構内中に響く程のわめき声を上げて皆に注目された。大学院生なのに。
それが頭にとまっている女の子も見たことがある。もちろん彼女はそれに気づいていない。たぶん生きたそれをアクセサリーにはしていない。もうホラー以外の何物でもない。
何週間か前、Yahoo!の今週の投票で「どの虫が嫌いですか?」みたいなのがあった。僕は迷わずそれにチェックし、投票ボタンを押した。他にゴキブリとかその手の虫がいたけれど、そんなのには目もくれず、それを選んだ。結果は全体の4%。世の中に対する猜疑心は一層深くなった。
夏の初め「アメリカでそれが大発生」というニュースがあった。大発生したから食べます、と言っていた。サラダが美味しいよ、と言っていた。そんなアメリカン・ジョーク、面白くも何ともない。沖縄でもそれを食べるらしい。そんなオキナワン・ジョーク、面白くも何ともない。
ということで、みなさん、今後それの話題で僕をからかわないで下さい。お願いします。フリじゃないです。
からかったら怒ります。本当に嫌いなんです。




